わが身を知って前へ進め

最近感じることに・・・
世間では“前向きに生きる”ということがあまりにも強く賛美されすぎているのではないかと思うことがしばしばあります。
例えば音楽シーンでも特に若い世代が聴く曲の中には、「前を向いて突っ走る」とか「力強く突き進む」とか「振り返らずに前へ進め?」というのような言葉の歌詞がよく使われています。“前向きに”ということ自体は勿論すばらしいことですが、ただ単に勢い重視の“前を向いて”だけの姿勢には少し違和感を感じるところがあります。

私たちは常に元気良く、力いっぱい進めたら良いのですが、実際なかなかそう思い通りにはいかないものです。つまずきもするし、壁にぶち当たることだってある。そんな時・・・どうするのか? 投げやりになったり、現状を受け入れないままに前へ前へという姿勢はいかがなものでしょう。
私は、立ち止まったっていいと思うんです。立ち止まって物事をゆっくり考え、今をしっかりと受け止める時間も生きていく上では必要なのではないでしょうか。

前に進むには、自分の足もとを見ていかなければなりません。足もとがおぼつかないと前にも進めません。場合によっては私たちは人の足もとは見えるのですが、自分の足もとにはなかなか目がいきません。
仏教の教えの中に、そして私が好きな言葉に「脚下照顧」という教えがあります。「脚下」とは足もと、「照顧」とは私自身を顧みるということ。よくよくわが身を知ることが大切であるということ。「照」の照らされるということは真宗的に味わうと、阿弥陀さまに照らされて知らされるわが身ということでしょうね。

さて、前向きばかり言われる現代。人生を歩むには踏み出す勇気はもちろん大切ですが、立ち止まる勇気も大切です。立ち止まって自分を見て、振り返ってみる視点こそが、いま私たちに大切なのではないでしょうか。前向きに生きていくとは、今をしっかりと引き受けて生きていくということと言えましょう。今の自分が見えた時こそ、前を向いての新たなる力強い一歩が踏み出せるような気がします。

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