あるご門徒宅へ年回忌法要のお勤めに伺いましたら、仏間の鴨居に一つの額が掲げてありまして、よく見ると祖父である先代住職の名前が記されておりました。
ご主人にお聞きしますと、戦死された御家族の葬儀にあたり先代住職が『表白文』を作成・拝読し、ご主人へお渡ししたそうであります。それを額に表装し65年間大事に保管されてきました。
次のような文であります。
恭しく弥陀釈迦三世十方の御佛様に申し上げます 故陸軍歩兵上等兵○○○○君 昭和十九年九月二日福岡市に入隊し五ヶ月後台湾軍蓬一九〇七二部隊に遍入し各地に力戦奮闘中 昭和二十年十一月二日午前七時五十分屏東陸軍病院に於て遂に戦死をを遂げられたのであります 凡そ百万人の戦死者を出した大東亜戦争の犠牲者の一人としてかつてあの日なつかしい故郷を歓呼の聲に送られた勇姿を再び見るに由なく今白木の箱に納まれる君を遺族と共に葬らふことは衷心慚愧に堪へないことであります 日本は今冷厳な敗戦の現実から新しい日本建設へと自らに誓ひ又世界に誓ったのでありますが 今後日本の前途は正にいばらに満ちた苦難の道であることを深く痛感いたします 然し如何に辛くとも平和国家としての日本を成就することが戦死者に対するせめてもの慰めであり生き残れる私達の責任であり且つ又世界人類の幸福に寄興する日本の使命もそこにあることと信じます 乞ひ願わくば弥陀釈迦三世十方の御佛様 人の世の暗き闇路に加被力をたれ導き給はんことを
釋碩道
65年前に書かれたこの文章を見て、当時の状況を思い浮かべるとじんわり涙がこみあげてきます。我が子を戦争に送り出す親の心情、そして何より自分よりも早くいのち終えていく我が子の姿、ご家族には私が想像を絶するほどの悲しみ痛みがあったことでありましょう。
いま、沖縄の基地移設問題で日本列島は揺れ動いております。しかし今こそ一人ひとりが平和について考え、過去から学び非戦へ向けての道を歩むべきではないでしょうか。
いのちは愛しく尊いがゆえに、殺してはなりませんし、殺さしめてもなりません。
「兵戈無用」と説かれた釈尊の言葉を戴き、「世のなか安穏なれ」と願われた親鸞聖人のおもいを しかと受けとめねばならないと私は思います。
世界中の人びとが手をとりあいながら、あらゆる宗教・民族・文化等の相違を超えて、争いのない豊かで平和なる社会を築いてゆきたいものです。